4/14の投稿で、超最新。IoT弁当箱「X ben」をご紹介しましたが、気になったので実物を見せていただきたいと取材申込。開発者の中澤優子さんに会いに行きました。
X benを平たく言うと「ランチタイムコミュニケーションを盛り上げるIoT弁当箱」というわけです。実際のものを見てみないと、正直よく分かりませんね。
待ち合わせ場所は、秋葉原のDMM.make Akibaでした。

シェアオフィスのDMM.make AKIBA Baseでお話伺ってきました。私は初訪問だったのですが、木目調できれいでしたわー。3Dプリンターもすぐ使えたりして、ものづくりの先端という感じ。

で、開発者の中澤優子さんにお会いしました。
元々電子機器メーカーのカシオで商品企画のプロダクトマネージャーとして携帯電話やスマホを手がけていらしたという経歴。
2014年、au未来研究所ハッカソン 「食」に参加したのがこのプロジェクトの始まり。参加した動機は「カフェから近かったからなんですよー」とのこと。きっかけって、結構そんなもんですよね。
今も秋葉原でカフェもやっていらして、カフェをやっていることでエンドユーザーのありのままの日常の様子を間近で見られるそうです。
- なんでお弁当箱?
食、というテーマのハッカソンでなぜお弁当箱を居選んだのかを聞いてみると、
「お昼って、一人で食べてる人がすごく多いんですよ。会社にいるころもデスクの前に座って仕事しながら適当に食べてる人とか、カフェでも一人で黙々と食べて、食べ終わったらずっと携帯やっているとか。2人とかできても、食べ終わった後に大して話もせずにそれぞれが携帯いじってる。もうちょっとお昼ご飯が楽しくてもいいんじゃないかと」
ここから【ぼっち飯撲滅】をスローガンに、仲間を見つけておかず交換を楽しんでランチが盛り上がる機能を搭載したお弁当箱の開発が始まっていきます。
ハッカソンでできたのは、電子部品をお弁当箱に入れこんで、お弁当箱が光る、というところまでだったそう。見た目は2段重箱タイプのお弁当箱のようですが、上に小分けできるおかず入れが4つあって、接合面がブロック型になっている。ブロック型なので、交換がしやすい。相手のをもらっても、自分のお弁当箱にちゃんと収まります。これを交換すると、お弁当箱が光る。下段には電子部品が収まっていて、ここにごはんやおかずはいれられません。
そのときのお弁当箱のデモンストレーションを youtubeで見ることができます。
X Ben | the demo movie on Nov.2014
この時点では、実用性からはまだ程遠い。食べ物を携帯する、というお弁当箱の大前提において、食べ物を入れられるスペースと電子分が収まっているスペースが同じ、もしくは後者の方が大きいのでは、おかずの方がただのお飾りになってしまいます。
ハッカソンでの発表を終えて、でも終わらなかった中澤さん。「え、これでいいの?ここからが本番じゃないの?」とここから本格的に開発がスタート。下段の電子部品を中ブタに実装し、おかずケースを抜き取りやすく、触ると発光タッチセンサー機能がついたりと開発を重ね、フランス、台湾、香港、イギリスを回って「Bento」が持っている世界(人々が描いている世界)を体感したそうです。
そして、Xbenは経済産業省のフロンティアメイカー育成事業の1つとなり、米テキサスで毎年開催されるインタラクティブイベントSXSW(サウスバイサウスウエスト)へ今年3月出展。このとき、「Social Bento box」という表現が来場者にXbenを最も端的に伝え、心に響かせることができた言葉だった、と中澤さんは語ります。

ここまでの道のりは、slide shareで見ることができます。
経産省フロンティアメイカーズ育成事業成果報告プレゼン_20150324(XBen)
- 実物見てみよう
そんな開発までのお話を伺いながら、実際にプロトタイプを見せていただきました。
重箱2段型で、電子部品は中ブタに内蔵。中ブタは印籠型、通常のお弁当箱のようにパッキンや留め具がないので汁モレなくちゃんと閉まる、というわけではないけれど、ちゃんと収まってくれます。容量は735mlなので、少食男子もしくはちょっと多めに食べたい女子におすすめサイズ。
上段は4つのおかずピースで形成されていて、下段にもご飯を入れられる。2014年の最初のデモよりも格段に実用という部分に近づいていました。エンドユーザーを常に見つめた商品開発を、と言っていた中澤さんの思いがそこに見えてきます。
このX Benは、アプリと連動することができ、同じ弁当箱を持っている人を探すことができて、ゆるーく「一緒に食べない?」と誘うことができる。ゆるーく、であることが大事。そして、おかず交換してもいいよ、と提示したり、交換したおかずに「ウマイネ!」したり、エリア内でXbenを持っている人のおかずサーチができたり、など、お弁当を楽しく、コミュニケーションを促進するためのアイディアが提案されています。
最新情報の詳細はこちらで。
X Ben|the next Bento box
X Benはまだ進化し続けていて、5月末にはまた新しい姿を見せられそう、とのこと。誰とは特定されない形で、エリアごとにお弁当の中身の写真が見られたら興味深いし(このエリアにいる人はやたらにごま和え比率が高い、とか)、お弁当をゆっくり食べられるスポット情報が検索できても楽しい。もしかしたら、日常的な通学通勤でなく、軽量化スリム化するよりも、いっそ行楽弁当型にしちゃって、エリア限定された行楽施設や場所でビーコンなどと連携させてイベント、なんていうのもよさそうだと思いながらちょっと触らせていただきました。
- 新たなソーシャルコミュニケーションが生まれるか期待
SNSでつながる仲間同士で自分のお弁当を披露しあったり、共通の話題で盛り上がるというコミュニケーションは、mixiやクックパッドはじめ、miilやペコリやSnapdishといった料理写真関連アプリなど、ずいぶん成熟してきました。ここに属するのは「作る人」が多い。
X Benがおもしろいのは、SNSを利用して「食べる人」同士の直接的なコミュニケーションをゆるーく促進しようとしているところ。
人が握ったおにぎりを食べられない人が増えていると話題になるほどなのに、そもそも人とおかず交換なんてするのか、電子部品加減を感じる容器が「おいしい」という感覚をじゃましないのか、携帯するという基本において運びづらい、汁モレする気配大、といったさまざまな課題が、どんなふうにクリアされて実用化にまた一歩近づくのか、とても楽しみですね。でも、中澤さんなら課題解決してくれそう、とお話ししていて思いました。
- おまけ。2010年に提案されていた「お弁当箱を介したコミュニケーション支援システム」
お弁当はそもそもずっと、家族間(作る人、食べる人)の直接的なコミュニケーションツールでした。作る人は食べる人の好き嫌いや食べられる量を考えて作り、食べる人は作ってくれた人の料理の腕や気遣いを感じるものです。
そして毎日のお弁当箱に小さな手紙を入れたりする人がいて、メッセージが印刷されたプリント海苔が出てきたり、メッセージ付きのお弁当カップ(おかずを入れるカップ)が出てきたり。そしてその進化系がキャラ弁。つい最近、思春期の娘さんのために作り続けたお弁当エッセイも大きな話題になりました。
と思いきや、別の角度からもっと思いっきり「作る人×食べる人」のコミュニケーションを支援している人が今から5年前に既にいました。
LunchCommunicator お弁当箱を介したコミュニケーション支援システム(情報処理学会創立50周年記念(第72回)全国大会)
お茶の水大学の研究グループによるもので、このお弁当箱の目的は
・作り手/食べ手の様子を自動記録.
・家族間コミュニケーションの活性化.
フタにUSBカメラが搭載されていて、お弁当を作る様子、お弁当を食べる様子(動画、音声)それぞれが自動記録できる。
さらにモニターもついていて、食べる人は作ってくれた様子を見ながら食べられる、という仕組み。ついでに、「あらかじめ自宅の位置情報を登録しておき,VillivS5 に内蔵のGPS機能や無線LAN位置情報サービス (e.g.PlaceEngine3)を用いて位置の照合を行う.」のだそうです。
インターネット接続の必要はなく、ソーシャルでもなく、あくまで1対1の関係性ですが、「最新技術とネットワーク接続を弁当箱に搭載してコミュニケーションを促進する」、という試みはX Benにかなり近いものがあります。
そもそも、そんなに年がら年中家族の顔ばかり見て過ごしたいか?息苦しくないかしら?という野暮な疑問はさておき、お弁当箱を通じて、お弁当の作り手が「自分の存在感を存分にアピールする」という点で、これはものすごく効果大です。
動画でもこのお弁当を見ることができます。2011年3月のものなので、ちょっと改良されています。
お弁当箱を介したコミュニケーション支援システム(DigInfo TVより)
ちなみにこの論文に名を連ねている工学博士の椎尾一郎さんは、お茶の水女子大学理学部情報科学科教授で、日常生活に根ざしたユビキタスコンピューティングの先駆者ともいえる方だそうです。遠距離恋愛支援システム『SyncDecor』(平成18年)にも関わっているそうで、ほんと、日常生活に根ざした感満載です。
お弁当が担うコミュニケーションの形。実用だけにとらわれない、新しい機能を持ったお弁当箱が生まれてくるはずです。日本の「Bento」文化ならではの進化が、これからもきっとあるはず。楽しみです。
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