出来立て感を追い続ける、魔法びん構造と弁当箱

先日、やっと時間ができたので、取材がてら以前から行きたかった企画展『おべんとうと弁当箱のはなし』を見に大阪への日帰り出張。昨年9月からやっていて、来週4/20(月)が最終日、ギリギリ滑り込んだ感じ。

image

大阪天満宮そば、象印マホービン株式会社1階にあるまほうびん記念館で開催されています。

imageimage

常設展示の中央部分に企画展示されていて、蒔絵の提重や行李、腰弁当、アルマイトなど、ざっと弁当箱の変遷をみることができ、何点か実物も展示されています。その中で面白かったのは、やはり魔法びん構造を活用した「保温弁当箱」の変遷。これが充実。保温弁当箱の登場は、これまでの「弁当は常温」を覆した訳で、数時間経っても「作り立て」「出来立て」感をお届けする使命を背負い、高度成長期を駆けてきたんだなあ、と思う。

 

image

大阪・グロリア魔法瓶製作所による「ランチャー」が1964年に登場した日本初の保温弁当箱、写真左手前の水色のが現物。構造は今と変わらず、魔法びん構造の筒型容器の中にご飯などを入れる容器が収まっている。ただし、最初魔法びんは内側がガラスでできていたのでかなり頑丈に外をステンレスで覆わないと破損しやすかったため、今よりも見た目はかなり大きい。

 

お弁当といえば四角、という発想から四角の保温弁当箱を開発しようとしてかなり苦労なさったが、筒型にして収めることで実現したそうです、と館長の山口巳年男さんの解説。山口さんは、歴史から構造まであらゆる魔法びんに関する質問に答えてくださり、解説してくださいました。かなり楽しい。

image

他社も追随して保温弁当箱が発売される中、1976年、初めて保温弁当箱に汁容器が組み入れた「ランチジャー」が象印マホービンから発売される。昭和生まれの私には、かなり懐かしいです。肩にぶら下げている人、子どもの頃に見たことあります。

そして、内側もステンレス構造にすることで、落としても割れない保温弁当箱が1980年代初めに登場するように。

 

imageほぼ現在の形に近づいています。写真は、1983年に発売された象印ステンレスランチジャー(当時の価格で5,000円)。底の部分に折りたたみ式のカトラリー搭載。男性向け、というイメージが強かった保温弁当箱ですが、しっかり女性用も出ていたのですね。とはいえ、女性が持ち運ぶにはまだまだかなり大きい。

image

従来型のステンレス製第1号は1985年に発売(象印ステンレスランチジャーあったかコンボ)。外装に、加工しやすい熱可塑性樹脂ポリエチレンを使用してより強く扱いやすく。コンパクト設計ですが、男性向けの大容量。

お弁当には「持ち運びの利便性」という課題も常につきまとい、保温性耐久性に加え、そこに向かっての課題解決をしつづけている姿勢がこの変遷を見ると伝わってきます。

 

image1990年に登場した象印ステンレスランチジャー「おべんとうばこ」は、課題解決を目指して少しスリムに。角型でドレッシング入れを内蔵。下段のごはんがスライド式で、本体の横から取り出せる設計で、かなり凝ってます。女性向け。

保温弁当箱は、ご飯が温かいのはいいけれど、傷みやすいおかずはなるべく温めずに常温のまま収納を、という課題もあります。このお弁当箱は、一見一体型だけれど、中を二層にしてご飯とおかず入れの間に断熱材をしっかりはさむことで解決している。

1900年初頭(明治末期)にドイツから日本に上陸したと言われる魔法びんは、1912年に国産化され大正時代中期に始まった海外輸出、昭和になり東南アジアへ向け活発に輸出されるように。当時は国内需要よりも、東南アジアに赴任している欧米人に向けた海外輸出のほうがずっと多かったんですよ、と山口さん。そして保温弁当箱も海を越える。

 

image

2005年ネット販売の大手アマゾン・ドットコムが販売を開始し、「Mr.BENTO」という名でアメリカでも注目されて人気商品に。2008年からは女性向けのに小型の「Ms.BENTO」も販売されているのだとか。写真は、2005年当時に販売されていたもので、現在はステンレスの魔法びん構造の容器に4つの小型容器が内蔵されて、専用先割れスプーンと、専用バックもついている。

Zojirushi SL-JAE14SA MR.Bento Stainless Steel Lunch Jar,Silver

を見ると、2015年4月16日現在で4.3stars。前日までで、4月に入ってから13の購入者によるレビューがアップされている。

===============================

ここで、保温弁当箱について整理を。大まかに言うと「ランチジャー」「保温弁当箱」「スープジャー」の3つに大別できる。

●「ステンレスランチジャー」タイプは、外側の容器全体が魔法びん構造なので、下からスープ→ごはん→おかずの順に収納して、おかず入れと接着する、ごはん容器のフタは断熱素材になっている。

●「保温弁当箱」タイプは、魔法びん構造で保温されるのはごはんのみ。ごはんを容器に詰めてさらに魔法びん構造の専用保温ケースに入れて断熱素材のフタをし、おかず容器は別。ごはん容器とおかず容器を収める専用ポーチは魔法びん構造ではない。

 

スープジャー

そして「スープジャー」タイプ。魔法びんの水筒にほぼ近い。ごはんやおかずの容器があるわけでなく単体で、汁物の保温保冷ができる。サーモス社がこの先駆けで、2009年に発売以来、他社も続々乗り入れている。私も発売当初から愛用者です。

こちらについては、次回。

日帰りで仕事のみだったので、観光する時間がまったくなかったものの、象印さんを出た後に、大阪天満宮にだけは寄り道しておまいりしてきました。夏にはここで盛大な天神祭が開催されるのですねえ。

imageimage

大阪天満宮の中に、「白米稲荷神社」があったので、そこでもお詣り。 おいしそうな名前です。
image
外に出ると、「大阪ガラス発祥の地」の石碑。
image
 元々魔法びんは内側がガラス製で、ガラス工業が盛んだったことから、魔法びんの主な生産拠点が大阪になったと、館長の山口さんがおっしゃっていました。現在も全国魔法瓶工業組合会員の全12社のうち、大阪府以外に本社を置く企業は、東京に本社を置くサーモス(株)と、新潟県燕市の(株)セブン・セブンのわずか2社とのこと。
というわけで、なかなかなかなか楽しい、出来立て感を追求し続ける、魔法びん×お弁当の世界でした。

投稿者: 野上優佳子_YUKAKO Nogami

料理家・弁当コンサルタントとして新聞、雑誌、TV、ラジオ、ウェブ、全国各地での講演など多メディアで活動中。「楽しく作って毎日おいしい こどものおべんとう」(成美堂出版)を始めお弁当などをテーマにしたレシピ本の著書(20冊以上)、レシピ本の企画制作、ワークショップ、弁当箱のプロダクト開発や商品アドバイザーなども行っている。 35年以上お弁当を作り続け、300個を超えるお弁当箱を使用した経験に基づき、実際に日々お弁当を作る目線からの、実用性と汎用性の高いレシピと洞察が好評を博している。私生活では2女1男の母。1972年生まれ。 Instagram(http://instagram.com/yukakonogamis/)ではお弁当を詰める様子やレシピの動画を日々更新中。 国立研究開発法人水産研究・教育機構「SH“U”N project(サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚プロジェクト)」外部レビュー委員。東京学芸大こども未来研究所 教育支援フェロー。東京学芸大学教育学部国際文化教育課程日本研究卒業。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。