「たまたま飲食店に上がれば牛肉屋である。その牛肉屋の牛が馬肉かもしれないという嫌疑がある。学生は皿に盛った肉を手づかみにして、座敷の壁へたたきつける。落ちれば牛肉で、ひっつけば馬肉だという。まるで呪みたような事をしていた。」
とは、夏目漱石『三四郎』の一場面。
明治23年に東京で、牛肉に馬肉を混入させて売る業者が摘発される事件があったそうで、明治41年に朝日新聞で連載されたこの小説は、その実際の事件が背景にあって描かれたものだろう。当時は、壁に肉を投げてその引っ付き加減で見分けられる、というおかしなうわさ話が流行ったのだそうだ。
ケチくさい食品偽装問題が毎日毎日ゴロゴロ出てきて、ふとこの場面を思い出した。それは今に始まったことでないのだと、改めて思う。とある百貨店のレストランでは霜降り和牛をうたい実は加工肉だったそうだが、加工肉を壁に投げたら、ひっついたかしら。
http://mainichi.jp/select/news/20131107k0000m040068000c.html